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「ここを渡れば、君の世界へ帰れるよ」

誰かそういってくれないだろうか。
家路につく足取りはいつだって重いままだ。

陸橋の階段を上りきると、いつもつい立ち止まってしまう。

陸橋を渡り切ったそこに、誰かが、そうだな、白いワンピースをきた女の子とかどうだろう。
その子がいってくれるんだ。

「ここを渡れば、君の世界へ帰れるよ」

もう何十回もそういう想像をしながら、この陸橋を渡る。

まばらについたマンションの灯り。
誰かを乗せて走る車のヘッドライトの流線。
あともう少しで沈む地平線の太陽。

あかりがこれほど世界には満ちているのに。
どうして俺はこれほど孤独なのだろう。

これから誰もいない、暗い部屋に帰るからだろうか。

誰かの言葉が恋しくて、つけずにはいられないTV。
何かとつながらずにはいられなくて、開くSNS。
明日が来るのが怖くて眠れない夜。

「ここを渡れば、君の世界へ帰れるよ」

そう、自分が当たり前に幸せな場所はどこなんだろう。

ワクワクして目が覚める朝を最後に迎えたのはいつだ。
自分が心から食べたいと思ったものを食べたのはいつだ。
誰かに愛想笑いをしなかった日はあるのか?

陸橋を渡る足取りが一段と重くなる。
いかん、またこういうことを考えてしまった。

誰も迎えに来やしない。
こんな妄想は何度繰り返しても救われはしないのに。
それでも思わずにはいられないんだ。

それでも思わずにはいられないんだよっ!!
突き上げるような怒りがこみ上げてきた。

なぜなんだ、なぜなんだ、なぜなんだっっっ!!!!
なぜ俺を迎えに来てくれないんだよっっっ!!!

バサッと物が落ちる音がして我に返った。
手に持っていたビニール袋が地面に落ちていた。
慌てて拾い上げて、歩き始める。

何に怒っているんだろう。
残された今日1日の、わずかなエネルギーを無駄に使った。
疲れた。
そう疲れてるんだ。
夢をみている場合じゃなかった。
帰ろう、家へ。

 

 

 

 

歩きだした、男の耳にそっとささやいた。

「ここを渡れば、君の世界へ帰れるよ。」

あぁ、聞こえなくなってしまったみたい。
今日は気が付いてくれそうだったのに。
この人は気づいてくれると思ったのに。

毎日毎日、声をかけ続ける、この陸橋で。
この世界に来てしまった人たちを見つけては声をかけるのに。
全然気づかない。
いろんな世界に迎えに行くけれど、この世界に来てしまった人には届かない。
どうしてだろう、この世界からは誰も戻ってこない。

幸せで戻ってこないのなら、まだあきらめもつく。
白い服の主は暗い顔で、男の背中が去っていった方角をみる。
でも、と浮かぶ疑問が唇からこぼれ出る。

「どうしてこの世界から、誰も戻ってこないの?」

あとがき

この世界じゃない別の世界があると思っている。
毎日生き辛くて、幸せじゃない時に、そう思っていた。
いつか誰かが迎えに来てくれるはずだから、それまで頑張って生きていようと。
小さいころから繰り返し思ってきた。

誰かが迎えに来てくれるはずなんだ。
きっと誰かが迎えに来てくれるはずなんだ。

でも、大人になってその希望すら見ることを忘れてしまっていた。
もうこの世界からでることすらあきらめてしまった。
何も変わるはずのない日常をあきらめて、生きていた。

そういう日々を思い出して書きました。

私にとって夕暮れは、一番心身を病んでいた時の出勤時間でした。
夕飯の香りがして、灯りがともる家をみて浮かんでいたのは絶望でした。
自分にはこういう幸せが訪れることは絶対にないと思いながら、いや、そう思うことすら心にストップをかけて働いていました。

なので、今でも、夕暮れの中で一人でいると、ものすごい孤独に襲われることがあります。
せつなくなるときもあります。
夕暮れって不思議な時間ですよね。

今回も使わせていただいたのも、空気感フォトグラファーの花村貴史さん(なむさん)の写真。noteの継続課金マガジン、「空気感フォト」の中の作品の一つ。
もう「3」まででています。
今回のお写真は大阪の夕暮れの風景だそうです。
月額1000円で購入できます。
みなさんもぜひ!

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この記事を書いた人

蒼(あおい)

蒼(あおい)

【灯台ブロガー】
●接客業を11年半やって、2018年5月31日で会社員を卒業しました!
●かつての私のように人生って暗闇だよねって思っている人に、灯台のように、北極星のように、そっと道を照らしてあげられる文章を書いて生きていきたい。

twitter:@yazumi_aoi

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